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【月評202301】住宅特集/新建築

住宅特集2023年1月号 月評

特集/2023年 住宅にできること

 

「住宅」に対する価値観や要求は変化し続けている。2020年のコロナウイルスのパンデミックを機に、住宅と人々の暮らし方は多様化した。1つの家に住み続けるという従来の暮らし方にも変化が起きている。掲載作品の中でも、時期によって複数の拠点を移動しながら暮らすことを前提とした住宅や、都心から自然豊かな土地へ移住するための住宅の事例がいくつか見られた。また、暮らし方の変化に伴い生活に必要な機能のみを持つ住宅から、人々が集まって交流したり、余暇を過ごしたりできるような活動の自由度の高い空間や、自然環境を享受できる豊かな住空間が求められるようになった。

 

「地面の家」「S邸」「シャイニング・クラウズ」では、人々の活動や環境などの複合的な要素を内包し、それらに緩やかな関係性を持たせることによって、心理的に広がりのある住宅となっている点で共通している。

 

「地面の家」では、地面を動的なものと捉え、建築の床を環境の延長のように作ることで敷地内の地形を増幅させている。また、床に曲線を用いて住空間へと自然を引き込み、テラスを外へ出すことによって、住宅での体験と広大な環境の体験が重なり合い、自然と共にある家を実現している。

 

S邸」は、母屋のすぐ隣に作られたセカンドハウスの計画である。外と中の間のような空間に対して五角形の屋根が架けられている。曲線的な壁が外部空間も内部空間も共に包み込み、さらに屋根が建築全体を覆うのではなく部分的に架かっていることによって、外なのか、中なのか、分からないような解放感のある心地の良い空間となっている。また、屋根の下にガラスを用いることで、まるで空間の上に屋根が浮いているように見える。このように周辺に対しても外に開いているようで閉じているような、外と中の曖昧な空間性が現れている点が興味深かった。

 

 

「シャイニング・クラウズ」では、記憶やイメージの断片をひとつに織り合わせて住宅を作ることを試みている。2つの箱の周りにダイニングやリビング、土間、茶室などの空間がひと続きに配置され、さらにその周囲を木々が覆っている。それによって、人々が違う場所に居て違う景色を見ながらも1つの空間にいるような一体感が生まれている。そして環境や人の活動が干渉し合い、屋根の下や土間、縁側などの中間領域によって、それが外にもにじみ出ていくような空間となっている。また、ひと続きの空間とすることで、人が自由にふるまうことができる空間の余地が生まれ、それが暮らしの豊かさに繋がっているように思う。

 

「石井の家」、「南房総の家」の2つの事例は、建主が都心から自然豊かな土地へと移住するための住宅である。どちらの事例も住宅機能だけではなく、地域に対して開くことで人々の交流の場としての機能を併せ持っている。このように、住宅に公共性を持たせることによって、地域の人も巻き込んだ拠点として地域に貢献していくことができる住宅の在り方に可能性を感じた。

 

 

生活に必要な機能のみを持つ従来の住宅から脱却し、人々の多様化する暮らしを寛容に受け入れ、住宅の外にある外部環境や地域との関係性などの複合的な要素をいかに住宅に引き込むことができるかが、これからの住宅をより豊かにすることにおいて重要なのではないだろうか。

 

 

M1 五十嵐美穂



新建築1月号 月評

建築とは環境を作ること

 

新建築1月号を一読したとき、この号のキーワードは「環境」であると感じた。というより建築界の近年の関心は環境にあるのかもしれない。環境という言葉によって理解できることは多いが、しかし、環境という言葉は広い意味を持つ言葉であるがゆえにそれが実際に何を指しているのか曖昧な場合も多い。私たち学生も、環境という言葉を使って自らの提案を説明することも多いだろう。そこで今回環境というキーワードをいくつかに分類しつつ、私たちはどのように環境という言葉と向き合っていくべきなのか考察したいと思う。

 

Art Gallery of New South Wales Expansionでは、環境と連続する建築をテーマに掲げている。ニューサウスウエールズ州立美術館の増築計画であるこの美術館は、シドニーオペラハウスの岬に広がるボタニカルガーデンに隣接し、背景には超高層ビルのオフィス街、眼下に広がるウルムル湾とその周りの住宅地をつなぐエリアに立地している。すなわち様々な周辺環境を持つ計画敷地である。それに加え、敷地の大半には土木構築物が残存していた。これら様々な敷地のコンテクストに丁寧に応答するように、ギャラリーはそれぞれ異なる方向を向き、床の一部は地形に合わせて傾斜し、ピロティーとテラスが設けられ、ガラスのファサードが設けられている。ここでいう環境とは、すでに周辺に存在している建築や土木構築物や地形を指している。これらの環境に対して呼応し連続するように建築をつくることで、周辺に馴染みつつ新たな環境を作り出している。

 

KEEP GREEN HOUSEは、建築の内外に緑が植えられ、植栽を通して視覚的に繋がりが感じられるようになっている。建築内部に植栽を引き込むため地面は土系舗装にし、外壁をガラス張りとすることで内部に光を取り込んでいる。また屋根には太陽光発電パネルを載せ、ガラス面外側に設置されたルーバーと植栽により採光と通風を調整することで、環境負荷を低減している。そこに存在する自然エネルギーを環境と捉え、それを最大限活用できるシンプルな構成で作り上げている。この建築における敷地は敷地境界線に囲われたものではなく、地球であると捉えることができるだろう。そう考えると、全世界的に取り上げられている環境問題に対する建築的解法のプロトタイプとなり得るのかもしれない。

 

 

52間の縁側は、細長い敷地形状に対して木架構を連続させ、そこに縁側を設けることで外部に対して開かれた建築を実現している。形状や崖条例などの厳しい条件が課された敷地ではあるものの、周辺にある豊かな木々と高齢者のためのデイサービスというプログラム、そして古来から日本に存在する縁側という形式が融合され、プログラムに縛られない自由で豊かな居場所が生み出されている。この建築は、周辺の自然環境を活かしつつ豊かなコミュニティ環境を生み出していると言えるのではないだろうか。

 

最後に、The Circle at Zurich Airportについて言及したい。チューリッヒ国際空港と既存の街の間に位置する複合施設として計画されたこの建築は、一見すると環境という言葉からはかけ離れているように感じるだろう。ファサードはカーテンウォールで覆われ、緑は少なく、巨大なボリュームが立ち上がっており、敷地環境という観点からも自然環境という観点からも語ることは難しい。強いて言えば、カーテンウォールのガラスが日射遮光ガラスであることぐらいだろうか。しかし、この建築を中間のスケールで捉えると環境という言葉から理解できることがある。チューリッヒという街には、ガッセと呼ばれる路地とプラッツと呼ばれる小さな広場が多くある。ガッセには国際ブランドではなくチューリッヒブランドの店が多く連ね、プラッツではコーヒーやワインを楽しむ。この建築は、そんなガッセとプラッツという街の特徴を取り込んだ、街の玄関口となる複合施設である。すなわち、街の環境を体現した建築である。そんな建築に迎えられた訪問者は、これからの滞在に心を躍らせることだろう。

 

 

以上のように4つに分けて環境を理解していったが、これ以外にも理解の仕方は多々あるだろう。しかし、今月号から言えることは、環境という言葉をどのように理解したとしても、環境に応答し建築を構築していった先に出来上がる建築は、また、環境を作り出しているということである。建築と環境というものは、切っても切れない関係にあり、建築は環境という言葉に包括される。今月号を読みながら、そして、この月評を執筆しながら、建築設計とは環境に応答し続けること、その姿勢を忘れてはいけないと再確認させられた。

 

M1 加藤慧祥