住宅特集 2022年12月号
月評
特集/住宅遺産の継承
公共建築とは違い、利用者が住民を中心とした一部の人々に限られる住宅では、継承していくことが難しいという現状があり、継承するにあたって何かしら手を加える必要があるが、その際、「どう昔に戻すか」、「どう今に近づけるか」という点が重要な点として考えられる。この2点はどちらか一方だけではなく両方を兼ね備えるケースが多く見られた。
『葉山加地邸 (p.64~71) 』では、これがわかりやすく表れており、歴史性を尊重し保存に徹するエリア(レベル1)、新規家具と照明により歴史と現代を融合するエリア(レベル2)、現代的な考え方により歴史性を再定義し再生するエリア(レベル3)にレベル分けをすることで物理的な意匠を保存するだけでなく、意匠のもつ規範や精神を保存していく「創造的保存」というアプローチが見られる。継承の仕方を明確に塗り分けることで、全体としての統一性が生まれるとともに、ユニークで手をつけづらく、的確な判断が要求される建築家作品の継承に対して、誰でも一定レベルでの継承を行うことができる可能性を感じる。
『LLOVE HOUSE ONOMICHI(p.102~113)』は、建物を通して「風景」を残そうとしている点が印象的だった。風景に一目ぼれしたところから始まったこのプロジェクトでは建築家だけでなく、アートディレクターやボランティアの人も関わっており、コスト面から工種ごとに発注を分けたり、クラウドファンディングを用いたりするなど、随所に工夫がみられる。様々な人が関わることで、建物をきっかけに思い出が生まれ、その上に成り立つ風景にはより一層価値が生まれていると感じる。それを含めての継承がなされるこの建築は興味深かった。
他にも目を惹くものが多々見られたが、大まかに昔の姿を大切にする傾向があり、減築をしてでも昔の姿に戻す事例が多いように感じた。
また、「構造」という点が避けることができない要素として立ちふさがっているように感じた。
本誌内の事例でいえば、『津田山の家(改修G邸)(p.52~63)』、『烏丸御池のタイポロジーハウス(p.91~101)』、『御所町プロジェクトの辰巳蔵(p.116~117)・A+(p.118~119)・洋食屋ケムリ(p.122)』『土蔵と家とレストラン NIM(p.124~131)』『修学院離宮の家(p.140~147)』が、構造について述べている。特に町屋・古民家では図などを用いて詳細に説明している傾向が強いことから、構造の重要性がうかがえる。町屋や古民家では築年数が長いものが多く、建物の規模感からも木造の建物が多いことが深く関係していると考えられる。
以上を踏まえると、住宅遺産の継承にはセンシティブな点が多く、新しく建物を設計するよりも高いレベルの技術が求められるのが現状であり、的確に判断をできる人材の育成や方法の確立が必要であるといえる。住宅ストックが多い現代において、我々はどの建築を継承対象として選び、どのような方法で後世に残していくのだろうか?これから社会に出る我々に課せられた課題なのかもしれない。
M2 山本翔輝
新建築12月号 月評
公共とは誰のためでもなく、誰のためでもある空間だと言える。普段、街を歩いている際に広くゆとりを持ったオープンスペースが使われていないところを見たことがある。庭や広場やテラスといったオープンスペースなどの公共性がある空間があっても、使いこなせていないし、まちに還元されていない。そうした場所では建築もうまく活用されていないことが課題だと感じる。今回はオープンスペースをその「広さ=量」ではなく、その場所での「行動=質」として捉えていきたい。
下北線路街プロジェクトでは小田急下北沢駅南口側のNANSEI PLUSに位置する、まちの植物の手入れを行う地域住民の活動拠点「シモキタ園藝部 こや」、「緑地広場」、ギャラリー「SRR Project Space」、また職住一体の商業店舗群「BONUS TRACK」と向かいのSOHO「HORA BUILDING」を手掛けたプロジェクトである。まちを理解し、まちの資源(コモンズ)を利用することでまちへと展開する拠点としてオープンスペースや建築が作られていることに可能性を感じる。
Roof Garden at The Valletta Design Clusterでは屋上に設けた通路、530㎡の屋上に地元の植生を反映した様々な植栽950本を配置し、歴史地区であるヴァレッタに街の人が誰でも使うことのできる公園としての屋上庭園を提案した。街の気候や敷地の環境から植物を選定し、ミーティングスペースや多目的広場などの多様な人の居場所に合わせたゾーニングとしている。こうしたオープンスペースが点在する屋上庭園が新たな街の資源となり、歴史の一部となる。
中外ライフサイエンスパークでは最先端創造研究所において必然的に生まれる移動空間に着目し、オフィス棟と研究棟を300mのスパインという一本道に動線を集中させることで新しいワークスペースを導入している。人々が行き来するスパインに多様な働き方を実現する機能を集約することで、スパインを通じて研究所内には、必然的に自由な行為や出会いが拡張していく。人々の行動がプログラムから生まれ、それらを利用するオープンスペースのあり方に新規性を感じる。
こうした多様なオープンスペースの在り方から、どのプロジェクトでも写真からオープンスペースでの人々の行為や表情までもが感じ取れる。実際に、活動が目に見えているオープンスペースの使い方が、民間や公共で多く取り入れられており、その質はそこにいる人の営みを主とするとともに、持続性や主体性を含む。これからのオープンスペースについて、人々が街づくりを行えるようなボトムアップ型のプロジェクトに期待したい。
M1 葛西健介