住宅特集 2022年 11月号 特集/最新住宅16題
本誌を閲覧して、住宅のあり方を今一度、考えさせられた。テクノロジーの発展や新型コロナウイルス感染拡大の影響によるニューノーマルなライフスタイルが徐々に定着しつつある昨今、住宅のあり方は変わりつつある。例えば、リモートワークの普及により、住宅の中に仕事に集中するための空間や設備が必要となった。また、以前は一生の買い物などと言われ、長期間住居が当たり前であった住宅だが、現在はデバイス一つで入居から退去までの手続きが行えるなど住み替えのハードルが下がり、その前提は揺らぎつつある。
そんな社会情勢の中、生まれた最新住宅は新鮮味があり、どれも興味深かった。
山田紗子建築設計事務所が手掛けた「miyazaki」では、住宅を構成するマテリアルが様々な色に塗り分けられており、私の知る住宅の色彩とは全く異なる点に驚いた。写真を見てみると、少し雑多さを感じつつも、階段や梁、柱など普段は輪郭がぼやけがちなものが際立って見え、新しい空間性が生まれていると思った。また、色の選び方として「同じ色が隣り合うことを避けつつも、ある瞬間、離れた色の連なりが生まれるように配色した」と記載されているが、この操作が効果的に働いており、さまざまなオブジェクトが重なりつつも、個を保つ設えとなっており、面白い操作だと思った。
Sanuki Daisuke architectsが手掛けた「Floating House in Thu Duc」では、住宅の床に対し、屋上含め、7割近くにあたる屋外空間の広さに驚いた。地面から浮かぶ三枚のスラブとそれらをつなげる屋外階段、浴室などが含まれるボックスにより構成されるとても単純な空間だが、その単純さが生む自然との連続性がある。また、スラブの形を変え、空間の多様性を作ることなど、各所に工夫がみられ、魅力的な空間となっていると思った。
須藤剛建築設計事務所が手掛けた「氷川町の住宅」は、外部空間のない敷地いっぱいに配置された住居からまちを感じられるような設えとなっている。特質すべき点は、閉じた家が立ち並ぶ現代の住宅地に反し、建築的仕掛けによってまちとの関係性を築こうとしている点にあると思う。住宅とまちがつながっている感覚が面白いと思った。
この先、社会の変遷に伴い、常に住宅、建築のあり方は更新される。そこで時代に求められる住宅、建築のあり方を私も考えていきたい。
修士1年 角谷優太
形態と物質
新建築11月号の加藤耕一の特集記事『建築の時間性から物質性へ』では建築が形態と物質の両側面を兼ねたものとしたときの、物質に着目した内容となっている。とても面白い内容ではあるが、この記事の大部分については省略しているので理解を深めるためにぜひ読んでいただきたい。その中で物質性、またそれに影響を及ぼす時間性に着目することが21世紀の建築の新たな側面を切り開いていくことになると述べている。
彼の言う物質性は人と物や物と物の関係のなかで成り立つものであり、李禹煥の「関係項シリーズ」のように関係が存在を確立させる概念であり、もの派的な思想に通ずるところがある。美術動向が建築分野の流れに先行することはたびたび生じることだが、物質性への関心の高まりから生じたリノベーションの興隆も、もの派の動向から生まれた時流なのかもしれない。
この指摘を経て、新建築11月号の掲載作品を見ると「新建築社 小豆島ハウス」の構造改修で求められた即興的対応が、「関係項シリーズ」の物同士の関係性と存在を建築の分野に落とし込んでいるようにも見える。構造改修による補強材と既存材の関係性が各所で変化しながら集積することで一つの建築をつくり、それぞれの物質の存在が関係を通じて表出している。この作品ほど顕著ではないが、「しののめ信用金庫前橋営業部ビル」「九段会館テラス」「静岡理工科大学学生ホール」でもおなじように関係を通じた物質性の表出が散見される。
また、物質性の側面でいうなら「石ころの庭」がとても興味深い。砕石を積み上げたただそれだけの作品だ。組積造と言っていいのかも分からないほど乱雑で、歩けば崩れていきそうで形があるのかもわからないほど曖昧なものである。しかし、全体で見るとピラミッドのような幾何学を有している。リノベーションでも建築とも言い切れないこの作品が物質性の観点では、最も可能性を提示していた作品であった。
物質がコンセプトから形態まで論理付けていて、形態に至っては人の上り下りで形を変えるほど不安定なものである。建築を形態と物質の両側面を兼ねたものとしたとき、この作品は物質を第一に考えて作られている。
特集記事はとても面白いものであったが、掲載作品をこの観点から見たときに興味深く感じる作品は少ないように感じた。
修士2年 小竹隼人