10月住宅特集月評
「言語」は変化し続けているそうだ。
その要因としては、歴史的、言語的、社会的、心理的と専門的な分野から分類できるそうだが、一般に生活していても社会や環境、流行によって語源のニュアンスが変化していることを感じる瞬間が何度かあるのではないか。皆が無意識に使う言語のニュアンスを感知しながら言葉を選択することが自分の考えを伝える時に重要になってくる。住は生活の中心であり、環境に影響を受ける最たる例であると考える。だからこそ、住に関係する語源は変化しやすい。建築学部の学生としてその変化の機微には敏感でありたい。
今回の特集である「別荘」は辞書で出てくる意味を超えた住まいかたの提案も多い。また建築作品名に関しても「家」「小屋」「ベースハウス」「住宅」「ゲストハウス」「保養所」とさまざまである。住まい方、価値観が多様化する今だからこその「別荘」の可能性が詰まっていた。
軽井沢の家、六甲の森の家、全作さんの小屋は、大きな自然の中の敷地であるという共通点があるが過ごし方とそれを支える建築はさまざまである。
軽井沢の家は、浅間山を眺望する軽井沢の傾斜地に位置しており、1階を地面から持ち上げ、R Cのキャンティレバーによって大きく張り出しており、浮いているようにさえ見える。また、平面図をみても1階を中心に生活が完結するようにゾーニングされており、大自然の中での“暮らす”を実現したようにみえる。
六甲の森の家は、裏六甲と呼ばれる六甲山系の北側に位置する森の中にあり、友人や仕事仲間と家族が一緒に使うための別荘として計画された。今では建主が毎日のように使うようになっているとのことだ。プランは単純な外形でありつつ、自然や内部諸室との関係性が考えられた配置となっており、団欒が育まれそうである。外壁や居間の壁などスギ皮貼りとし自然の荒々しさが残るような素材を仕上げとして多く採用している。外観に関しては自然の中の山小屋のような雰囲気を醸し出しており、意図が明確であるがそれに対し内観は、敷地の大自然に対して半人工的な自然の素材が浮き立っているようにみえた。自然の中の人間の営みを考える上で、人工的な部分をどう調和させるのかが難しそうだと感じた。
全作さんの小屋は、酪農家・吉田全作氏のオフグリッドの小屋である。古屋という題の通り、面積は最小限でありつつ目線の抜けのなかに各機能を分散させており、「古屋」という言葉が持つ素朴さと豊かさを同時に感じさせる。敷地に対しての配置計画や片流れの屋根、エネルギー自給自足の考えは自然の境界に住まいが属しているようにみえる。それは機械や科学を用いながらも建築自体が呼吸をするように循環している一部のようであるように感じるからかもしれない。
いすみの家の、ビジネスモデルは今まで「別荘」が抱えていた、管理や資金、投資などの難しさのハードルを抑え、さらにその敷地のポテンシャルを建築として最大限引き出した形で価値を提供できることに新たな可能性を感じた。テラス前のプールや開口が作り出す自然のエアコンはまさにキャンプのような体験でありつつ、建築としては階高や開口などスケールは大きく感じホテルのような二面性がある。「キャンプ」という言葉が持つ原始的な自然体験と本建築が持つ空間とのギャップを少し感じざるをえない。
都市のベースハウスの都市に対しての開かれたセカンドハウスの考え方には驚かされた。「別荘」というと広大な自然とそれを大いに享受するための建築のイメージが強いが、半屋外空間に対する法的解釈も含め、多種多様な価値観を持つ人が雑多に集まる都市だからこその、人との体験に目を向けたセカンドハウスは大きなポテンシャルを秘めているように感じた。
壬生坊城町の住宅は、町家という水平垂直の規則性に対して、同じく町家が持つ奥行きを水回りを収めた曲面のコアを配置することで、さらに奥行き性を与えている点に感銘を受けた。2階は曲面を使用していないが、1階から連続するぐるぐると回遊性のあるプランにみえる。構造の健全化も施しており、都市だからこそ住まい手が更新されても、建築が引き継がれていくための視点が重要であると感じた。
別荘特集からみた、新しい住まい方は個性が溢れていた。価値観が多様化する今、生き方そのものを支えてくれるような建築が求められている。
M1 里吉佑麻
新建築2022年10月号 月評
木造という言葉は多くの意味を含むようになった。CLTによる普及型住宅「木楽の家」も、Shopbot加工の部材で成立した「まれびとの家」も、700mm×500mmのLVL柱からなる「Port Plus」もみな木造である。〈つくり方〉が追求され、大工の職人技からアップデートしようとしている。そんな中今号の新建築は、SDレビューで注目を浴びたばかりの「森の端オフィス」を表紙に、多様な工法が集った木造特集であった。
掲載作品の中でも、やはり部材の〈つくり方〉へ目を向けたものが多く見受けられた。先述した「森の端オフィス」は、水分が多いため材木利用を避けられるブナを入念に乾燥し用いるなど、里山の木々を活用した建築である。適切な部材へ適切な樹種を取り入れた結果、樹種の利用比率が里山全体の構成と同程度になっており、山との親和性を体現した作品となっている。「北海道地区FMセンター」は地元産木材を用いたオフィスである。住宅向けに一般流通サイズでカットされた道産材を活用できるよう、梁・柱・筋交を二重化するという新たな木架構「ダブルティンバー」を取り入れている。「山五十嵐こども園」は大屋根からなる平屋の建築で、大きな材を運べないという立地関係から、一般材を用いたトラス梁を採用している。三角形の山と谷を巧みに用いることによって、積雪荷重に耐えうる大スパンを実現した。「昭和学院小学校 ウエスト館」もまた大空間と木造の暖かみを両立させた小学校の増築計画である。こちらは床・屋根・壁のすべてがCLTで構成されており、線材でなく純粋な面の構造からなる木造建築である。