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【月評202209】住宅特集 / 新建築

住宅特集9月号 

「風と光と熱のデザイン」 

 

 近年、省エネ、脱炭素社会の実現が常に叫ばれ続けている。建築業界も例外ではなく、2022年6月に改正建築物省エネ法が交付されたことにより、段階的に持続可能な社会の実現に寄与していく仕組みが出来上がりつつある。

 

 新築ではもちろん、住宅ストックを活かし、利用していくために既存住宅の改修利用を環境的視点を持って行うことは今後重要になってくる。新築であっても改修であっても環境制御装置や省エネ装置がただ付加的に置かれるのみになるのか、もしくは意匠的に利用され、合理的に置かれているのか、という点が今後の意匠設計者にとって重要であると私は考えている。構造体が表しとなって意匠利用されるような考え方が環境装置でも実現可能なのかという視点で見ていくことにする。

 

 例えば住宅の断熱性能表示は法改正によって今までの最高基準が最低基準となって義務化されたが、意匠性を重視する建築家にとって新たな要素は新たな空間を必要とし、実現したい空間にとって邪魔なものとして扱われてしまうかもしれない。そうなってしまえば、現在の最低基準が満たされるのみで、以前の最高水準を満たすにとどまってしまうのである。法改正という節目の今、環境装置、省エネ装置の意匠的扱い方に注目することが必要である。

 

膜屋根のいえ」の事例では、環境面において二重の膜屋根による自然光の取り込みと熱環境効果への期待、半円型のライトチューブによる断熱層の形成と重力換気による室内環境の快適化の実現といった手法がとられている。この2つの手法は空間に対する意匠性を持つと同時に、環境装置としての役割も果たすため、非常に合理的であるといえる。

 

部分断熱の家」の事例は木造平屋住宅の改修事例である。既存の日本家屋の格式を担保するヴォイド空間と耐震補強と熱的快適性を担保するジェネリック空間の2つの空間を持っている。部分的な必要性に応じて環境の異なる空間を挿入できるのは改修ならではの手法であり、その空間が耐震補強の役割も果たすことで合理性を高めている。

 

におの浜の家」の事例は、総合展示場の中に建つという、住人がいない珍しい試みである。恒常的に人が生活しないという点で、新たな手法、可能性の模索が可能という面白い試みであるように思う。この事例では、「性能と意匠の両立」が目指されており、最新のOMソーラー(OMX)の技術を開発者と共に利用し、実験的に住宅に用いる提案としている。こういった新たな技術を試す機会があること、そしてその結果がデータとしてまとめられる機会があることは一般的な利用の手助けとなるように思う。

 

 

本誌のまとめとして、全体的に感じたのは自然が多く敷地のポテンシャルがもともと高い点である。周囲に建築物が少ない事例ではより建築、人口の密度の高い都市部の住宅における再現性が低いのではないかという懸念はあると感じられた。建築環境、自然環境に対する建築的手法が多く試されている点は評価されるべきであるが、都市部にも問題は山積みである。密度の高い地域での再現性の高い手法が、より重要になっていくのではないか。

 

 

 

M2 清水翔太



新建築 月評9月号

ここ最近は、毎日卒業制作というものやらに頭を悩まされている。テーマを決め、問いを設定し敷地の特性を捉え、歴史に触れ、問題を解決するための仮説を日々探している。その仮説を決める上で、さらに、建築において最も重要なことは「場所」と「人」にどんな価値を寄与するのか、「場所」と、「人」とどう関わるのかということだと考える。例え、どんなにファサードが美しくあろうが、誰もが知る著名な建築家がデザインした空間であろうが、居心地の悪さ、場所との違和感をその「場所」、「人」が感じてしまうのならば、町に置かれたどこにでもあるようなベンチ(一人でのんびりお茶をしたり、友人と会話ができたりする)の方が、空間が「場所」と「人」に与える価値として優れているのは明白である。

 

 屋島山交流拠点施設は瀬戸内海や山との自然を楽しむ観光施設、あるいは屋島の文化との交流施設として屋島の山上に建てられたものである。自然を楽しむ空間を生み出すとしたら建築など存在しない方が良い場合が多い。直接、自然に足を踏み入れられる上に、景観としても人工物の挿入はアドバンテージにはなりにくい。そんな中で、この建築は、自然の中に人工物を挿入した成功例だろう。敷地の自然的高低差(最大3メートル)や木々と言った地勢を読み込み、大きな回廊状の建築は緩やかな高低差(最大6.6メートル)を持つ。この回廊を歩くだけで、スラブが地面に持ち上げられた空間で眺望が楽しめ、屋根が地面に降りそうなほど低くなることで森の中を歩くような空間となるなど様々な表情の連続が楽しめそうだ。まるで、この建築が生まれる前の山の中を探索しているようで、地勢の延長の建築として自然に馴染んでいる。

 

 

 次は、都市という場所に対しての空間を見ていこう。神田錦町オフィスビル再生計画は、既存の築53年の良くあるオフィスビルの改修である。調査により、容積率や、道路斜線において違法建築と分かった。また、両隣の高層ビルの公開空地を遮るように立つ、先の言葉に当てはめると、「場所」と「人」に居心地の悪さ、違和感を与える建築である。この2つの大きな問題の解決策として減築という手段が取られた。建物の位置はそのままに、内部空間をセットバックさせることにより、ファサードはそのままで柱のみが残る屋外空間が生まれた。補強に入れられたH型鋼の存在感の強さは否めないが、くり抜かれたコンクリートのスラブはゴツゴツとした断面がそのまま残る。この荒々しい表面が残る空間が公開空地を繋ぐ優しい居場所となっている二面性が面白い。人を寄せ付けなかった建築は減築により「人」に人に寄り添い、「場所」に受け入れられる建築となった。高度経済成長期に量産された無機質で冷たい建築は、老朽化し、このオフィスビルのように改修される時が来ている。持続可能な社会を目指す中で建築家としては、これからも押し寄せる改修の波をどう捌いて、「場所」そして、「人」に価値を与えていくのか考え続けることが役目ではないだろうか。

 

B4 櫛引翔太