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【月評202208】住宅特集 / 新建築

 住宅特集 2022年8月号  

月評  

特集/庭  

 

暮らしと場所を治癒するもの 

 

 

 自然から身を守るために生まれた建築だが、現代の都市では少なくなった自然をいかに建物内に引き込むかということが一つの課題となっている。そこで重要となってくるのが建築と風土を繋ぐ庭の存在である。つまりその土地の自然、文化を建築に馴染ませる緩衝体とも呼べる。 

 

庭を扱うとき、自然との関わり方には大きく二つに分けることができる。元からある自然を受け入れそれに建築をチューニングしていく方法、自然を制御し環境を作り上げる方法の二通りである。 

 

前者の事例として『石積み壁の家(p.10~p.21)』『姶良の家(p.26~p.35) 』が対照的でありつつも解答を示していた。石積み壁の家では一階外壁に地域特有の錆御影石を用い、二階三階の外壁には杉皮張り、土壁色の珪藻土を用いて景観に馴染む配慮をしながら三階西側には落葉樹に合わせて大きな開口部をとり外部とつながっている。姶良の家では四方を土塁で囲みつつ内部にはおおきな庭を取った平屋であり、断熱性の高い生活部である母家と自然を感じる離れに分けて効率的に解放感を得ている。どちらもその風土に合った木々にあわせて開口部の高さと大きさを決定しており家と庭を一体として捉えていることがよくわかる。 

 

 

後者の事例として『雪の下ファームハウス(p.36~p.47) 』は敷地を五分割するような放射状の形であり間にそれぞれの特性に合わせて選定した畑が挿入されている。また屋根の勾配を操作することで雨水がそのまま畑に落ちるようになっている。平面図を見ると楽しそうなのだが写真とのギャップを感じた。素晴らしい試みだと思うがここまで大げさな操作にみあう利便性があるかは少し疑問が残る。『農家住宅の不時着(p.48~p.57)』は斬新かつ秀逸なものに感じた。「非都市の都市化」によって起こった専業農家→兼業農家→週末農家の変化と区画整理による自動車のためのインフラは郊外から余白を奪い、建築から庭眺めるのではなく庭から都市を眺める状況を生み出した。そこで宙ぶらりんになってしまった農家であった家を解体、減築することで、余った部分でしかなかった庭を拡張し室内と等価のものとして扱うことで郊外のあるべき姿を取り戻しつつ、空間に余裕をもたらしたことで母家から離れを感じることが可能となり庭がインテリア化させたのだ。減らすことで空間的には広がりを生み出したのだ。 

 

 

少ない土地の中で開放的に暮らすためには庭を余った部分として扱うのではなく室内と等価なものとして扱い、精神的な空間の広がりを生み出すことがこれからの日本の住宅には求められているのではないだろうか。 

 

 学部4年 有田 俊介



 

新建築 2022年8月号 

月評 

集合住宅特集 

ウェルビーイングと自然 

 

 

 

今月号の建築論壇では人間が快適に過ごせる住環境について言及されていた。 

住宅環境の温度が健康に影響する話が興味深かったのでここに示す。 

寒さによる健康影響から身を守るには最低18度以上の家に住むことがWHOの住まいに関するガイドラインで提唱されているが、日本で人が住んでいる住宅5,000戸のうち約1割しかこのガイドラインを満たしていないという。健康にはもちろん食生活も影響しているが、それと同時に私たちが住まう住環境も大きく影響し、暖かい家に住むという基本的なことが人間にとって重要な要素だったのである。 

 

もうひとつ、チドリテラスの設計者である藤原徹平さんの話も興味深く読んだ。 

「古代都市において既に住むという営みが、人工環境として高度に形式化されており、その人工環境が土地の傾斜というものを秩序の根本にしていること」ということであった。今日の住宅の多くは切土盛土によって丁寧に整地された土地の上に建築されている。土地の変形をデザインの問題として取り扱い、設計に取り入れることで、建築がその土地の時間の中で連続的な存在となりえるのではないだろうか。  

 

「土地」を重要なキーワードとして今月号を読み込んだ。  

 

『THE  TWIST』を読み込んだ時、非常に合理的に設計されているという印象を受けた。達成したいコト(=モミジの大木を守ること)があって、クリアしなければならない規制があって、それを合理的に整理し、上手に解決した結果だからだと思う。 

東京という都市の集合住宅をつくるときに「いかにして容積を使い切って収益性を高めるか」ということが正しく、合理的であるかのように広くは考えられている中で、「そもそもその土地にある大切な緑を守る」ということを重要な課題として扱い、それを中心として設計を進められていた。コンクリートコアが主な構造体となり、鉛直力をφ100の丸柱に負担させているから、梁を必要とせずスラブ厚を170mmに抑えている。モミジの大木の枝を守るように各階をツイストさせ、日陰・日照規制をクリアしている。モミジの大木を守るという大きな命題が結果的に4階建てを実現し、収益性を高める要因ともなった。そして、敷地南側の庭は整地しながらもモミジを残し、そこにあった自然も残し、採光や通風など基本的な快適性も十分に確保できている。以前の住戸よりも、より地形や自然を取り入れられているように思った。非常に合理的な解法に感銘を受けた。  

 

 

 

 

『コムレジ赤羽』は企業寮、学生寮、賃貸マンションの3棟から構成されている。敷地にロの字に建築が囲み、中央にカフェテリアや中庭などの共用スペースが設けられ、企業寮・学生寮はどちらもキッチン付き共用リビングが各階に設けられ、施設全体として交流を促しているのが分かる。1Fの中庭を囲むカフェテリアやラウンジはガラス張りで、中庭の緑が人々の視線や気配を緩やかに共有する緩衝材となっている。共用リビングや企業棟のラウンジでは自然と交流が生まれるのが想像できた。一方で中庭やカフェテリアという素敵な場が設けられてはいるが、人々が交わらずして他人という一定の距離を保つこともできるように思う。人々がまじわるには個人の努力が必要なのではないかと少し思った。 

 

高尾山は私にとっては都会に一番近い登山ができる場所というイメージで、年間300万人が訪れるメジャーな観光地でありながらも登山以外の過ごし方が少なく、下山したらそのまま帰宅する印象だ。多くの人がそうだと思う。だからこそホテルらしいホテルがほとんどなく、駅周辺にも住民の方々の生活感が残っている。『タカオネ』はそんな高尾山での過ごし方にプラスアルファで体験を提案する施設だと思う。高尾という街の魅力を再発見するきっかけになるのではないだろうか。前面道路に面したテラスは軽やかな構造にして、街にひらいている。敷地の山側の中庭は森のテラスとして、BBQや焚火、薪割りを体験でき、裏山の緑のにおいや吹きおろしてくる風、湿度など、まちのテラスとは対照的に高尾山の雰囲気をその場で感じられる場となっている。リモートや新しい働き方に移行しているこの時代にこれだけ都市圏から近く自然を身体で感じられ、気軽に滞在できる・高尾を体験できる、すなわちウェルビーイングな状態を提供するこの施設に可能性を感じた。 

 

今日の建築において、ウェルネス(=心身の健康が保たれた状態・知的生産性が高くクリエイティブな仕事ができる状態)は基本的な指標であり、さらにウェルビーイング(=幸福で、社会性を持っている状態)を高めていくことが重要な課題として認識されるようになり、それらがこれからの建築に求められていることなのではないだろうか。 

 

学部4年 湊 夏海