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【月評202207】住宅特集 / 新建築

 

住宅特集 2022年7月号 

 

特集/家の中に外をつくる 

土間・縁側・テラス 

 

日本の住宅の特徴として、靴を脱いで家へあがるというものが挙げられる。これは便宜性や高温多湿な気候のために、このような習慣が生まれたと考えられている。個人的には靴を脱ぐという行為は、「内と外」という認識が明確になる行為であると感じている。 

 

ところで、日本の住宅には古くから土間や縁側が存在する。住居内で靴を履いたり、内部に居ながら外部を感じるという内と外が曖昧な空間だ。 

これら建築的外部空間について本誌冒頭に、 

暮らしを守りつつ外と繋がり解放性を得るという、一見対立する希求を受け止める、人々の知恵の積み重ねが生じた住まいの緩衝帯」 

とある。 

プライベート空間を守りながらも、暮らしの中に外と繋がる部分が欲しい。けれども、完全に外と繋がりたいわけではないという、慎ましくも控えめにわがままで天邪鬼な日本人らしさを感じる場所である。 

 

 

以前までは建築的外部空間とは、滞在時間や利用度の視点からは、住宅の中でサブ的立ち位置であると考えてしまっていた。本誌の掲載作品を見ていくと、建築的外部空間は曖昧な空間であるからこそ、街や暮らしの可能性が広がる存在であると感じた。 

善福寺ロッジアハウス(P.026-033)』では、用途地域による高さ制限や建蔽率、斜線制限などの法的拘束物、住み手の要望などを、ロッジアによって解決している。この空間を介して、「まちと太陽を調律する暮らし」を提供する住宅となっている。 

7部屋のコートハウス(p.054-055)』では、外部に広がる街の構造や歴史について考慮し、中庭を中心として7つの部屋がそれぞれの部屋に互いに開く設計となっている。中庭に接する面がすべてガラスとなっていることで、部屋と部屋、部屋と中庭、あるいはワンルーム、といったような多様な切取り方ができる。この作品における中庭は、設計のコンセプトを実現させるための重要な要素となっている。 

 

建築的外部空間は、古来からプライベート・パブリックのすみ分けと繋がりの役割を持ち、そして現代では街や環境との接続点としている。人々はこれをただの作業やくつろぎのための空間とせず、各々の住宅における重要な立ち位置としていると受け取ることができる。 

 

 

修士二年 杉本実紗希 



 

新建築 2022年 7月号 

月評

 

  インクルーシブとは「包括する」「包み込む」などと訳され、インクルーシブ的思考とは特別な「個」に着目することである。「個」に対する課題を解決するために生まれたデザインが、また別の「個」に対する課題を解決するということが起こりうる。「個」という違いを大切に考え、違いを認めることは建築にも当てはまる考えであるだろう。 

 

 

シェルターインクルーシブプレイス コパル」は「みんなの公共建築」として子育て環境の整備の一環として建てられた児童遊戯施設。車椅子の子供や付き添いの高齢者のためのスロープは、スロープを必要としていない子供たちにも駆け上がりたくなる遊びのきっかけとなる坂道ととらえられる。階段を使うことが難しい人にとって課題解決となるスロープが、子供の新たな遊び場となり、別の「個」に対する課題解決となっている。 

 ある課題を建築のパーツによって解決しようとすると、パーツの性能や精度を高くすることしかできない。しかしインクルーシブ的視点から、パーツに少し欠点があったとしてもそれらが関連し合うことで全体の個性が生まれる。一般的に外部に音が漏れないように重い壁で囲まれ、ホールは固く重たい印象を与える。しかし「House of Music」のイベントホールは二重のガラス張りとなっている。防音に関して、厚く重い壁よりも性能が劣るガラスを二重にすることで、音を外部に漏らしづらくしている。そしてHouse of Musicは公園の中の森と調和し、森の中に浮かぶ軽やかな印象を与える。 

 

「個」に対する課題を解決するデザインと、「すべての人」に対するユニバーサルデザインは一見反対のことのように思える。しかし「個」に対する課題を解決するデザインが他の人にとっても必要とされるように、アイディアの輪が重なり合うことによって「多くの人」にとっての居場所となる建築が生まれるのではないかと考える。 

 

 

学部4年 平濱美有