箭内:というわけで、第2回のテーマは卒制の振り返り。だっけ?
加藤:そうです。
今回のメンバーは、M2の箭内一輝、M1の加藤慧祥、B4の清家直音の3人です。
箭内さんは、卒制のエスキース担当。自分は、当事者。直音は、自分のお手伝いさんでした。
箭内:1つ目の質問は、「去年の卒制を終えて」。まず本人から言ってみる?
加藤:まず、学部の設計課題とは違って、自分の好きなことでできること、建築に対しての今までの考えを言語化できたこと、自分が興味あることが明確化されたところは、大きな収穫かなと思います。
箭内:なるほど。今のM1の代は、最初に持ってきたテーマとか話題が、具体的な人が多かったという印象があった。敷地がもうあったり、具体的にストーリーめいたものがあったり、輪郭がはっきりしている子が多かった印象。
加藤:ただ、自分は他の人たちと違って敷地も決まってないし、やりたいことも言語化できていない段階でB4の4月を迎えたので、多少なり焦りはありました。
箭内:(笑)
加藤:というか、かなり。
箭内:(笑)まあ、なんだかんだ、みんな回り道していたけどね。
加藤:そうですね、なんだかんだ。
箭内:テーマが決まっても、なかなか設計が進まない子、敷地から始まってテーマが一向に決まらない子。見ていてヒヤヒヤしたけど、ふたを開けてみると、設計がうまかった代かな。テーマでは、やや大道なところが多かった。
一方で、設計はさすが、精度が高い。よい空間を作ることに意識が向いている人が多かった。学内の評価で、悔しい思いをした人が多かったけど、作品として「すごくよかったよね」っていうのは、先生含め、みんな言っていた。だから、自分達の代とは、ちょっと色が違ったかな。
加藤:俺らの代の特色としては、誠実に解いていく、みたいな所があって…
箭内:自分で言いますか(笑)
加藤:いや、自分のことだけじゃなくて「代の特色として」、みたいな(笑)
箭内:なるほど。
加藤:辺鄙なことを考えるとか、テーマ勝負なところがある中で、「心地いい空間とは」みたいなことを考えている人が多かった。
テーマ・敷地は、バラバラでも、すごく人に寄り添った設計をする学年だった気はしますね。
箭内:なるほど。
清家:それって自分の興味とか。好きなことから始まっていく感じですか?
加藤:始まりはそう。それを使う人が心地よくなってほしいという願いが込められている感じ。
箭内:手伝ってみて、感じたことはあった?
添景や、シーンへのこだわりとか。
清家:最後のショット撮るところ。慧祥さん、1番、時間をかけていました。
加藤:確かに。(笑)
やっぱり、時間はかけました。
照明、画角、写り方とかも含めて、全部。設計は、むしろ途中段階がすっぽ抜けているぐらい焦ってしちゃったんです。でも、最後の見せ方は、こだわりました。
箭内:なるほど。なんか空間は上手だった人は多かったけど、ロジックとか、どういう意味があるのかとか。その辺の詰めが、ちょっと甘い人が多かったかな。
葛西は、色んなところで評価をもらった一方で、話の一貫性が、やっぱりちょっと粗は多いなという印象。慧祥の設計も、本当に解けたのかは、やっぱり、疑っている部分があった。あと、他の子達は解けた一方で、どれくらい強い疑問の提案、というか、大きい問いというわけでもなかった所もあった。
加藤:はい。
箭内:その点で、学外に行った時は、今まで触れていなかったテーマに触れた子や、難しい問題を解いた子に軍配が上がったりしてたのは、その辺の弱さが出たのかな。どうしても、流行り、テーマを見る流れがあるとはいえ、ちょっと惜しい印象を受けていました。
加藤:やっぱり、言語化に苦しんだ人、プレゼンがうまくいかなかった人、設計も考えてることも良いのに伝わってない人が多かった。
箭内:もうちょっと時間があったら、っていう子は、居た気がする。
加藤:次のテーマは、直音に。卒制を手伝っていた所から、自分が実際にやる番になって不安に思うこと、もしくは意気込み。
清家:意気込み?
一同:(笑)
清家:えーなんだろうな。
箭内:まあ不安なことの方が多いんじゃない?
清家:そうっすね。まだテーマも決まっていないので。
結局、先輩たちって最終的にはテーマを決めてからも、悩んだりはするんですか?
もうそれしかないな、って確定するまで悩み続けてそれを見つけたのか。それからも迷っているけど、とりあえず、これかなっていう不安な状態で最後まで行ったのか。
箭内:やっぱり、誰しも、ある程度ブレる。だけど、ブレ幅が違う。
ある程度、初志貫徹っていう人もいるけど、枝葉が分かれていって、自分のやりたいことを達成するっていう人もいる。みんな、結果として、やりたいことに近い結果が出たっていう感じ。
加藤:俺はこの代で、1番ブレた人ですね。
箭内:そうかな?
加藤:キーワード的には、1ヶ月ごとでちがう状態でした。でも、見返してみたら、共通点はあって、自分の設計理念的なところを当てていた気はしてる。それにひと早く気づけていれば、前段部分にもっと良い言葉が出てきたかもしれない。ていうのは、振り返って思うことです。
箭内:なるべく、自分の興味にフォーカスしてると、どうブレても、結果的には小さい山が積み重なって大きい山になる。軸足を置いていれば、積み重ねで、設計するときには、地盤が固まっている、みたいな。
清家:じゃあ、自分のなかの一個のテーマに基づいて、ほかも当たりながら探していく、っていう感じなんですね。
加藤:夏休みまでは色んな本を読んで、色んな経験をする。実は、全然ちがうように見えても使える部分、考え方とか手法とかがある。だから、今のうちは「蓄えておく」感じ。
箭内:よくない例だと、興味のないテーマで始めたまま、無難に終わって、自分らしくなかったとか、もしくはやってて辛かったていう人がいたり。あとは、テーマが、最初と、まるっと何も関係なくしてしまうとか。
だから、最初に自分が興味を持っていることは、信用していい。そこからテーマが始まる。
箭内:あと3つ目(の質問)あるんだっけ?
加藤:卒制の意義。
箭内・清家:意義?
加藤:3年生まで設計課題でプログラムや敷地が与えられている中で、すべてがフリーになる卒業制作。学部生の一区切りだし、人によっては学生で設計するのは最後という人もいる。それがどうこれから影響しそうか、みたいな。
清家:ひとつの最終地点みたいな感じですもんね。
それこそ、最初に慧祥さんが言っていた「自分の本当の興味」を見つける、ていうか。これから、働いていく上でのテーマにもなるじゃないですか。だから、それを見つけるのが「意義」なのかなと今思いました。
加藤:そうね。
卒制って、これから建築界でどう生きていくかを示すところもあって。設計段階で、お施主さんの要望がある中で、それ以上によい空間とか、よい建築って何だろう?てことを考えていくことになると思うんですよ。
卒制で、考えたことが、そこで活かされる。要望どおりでもよい建築が、できるかもしれないけど、さらにより良い建築を作るための土台になるんじゃないかと思う。そこが、卒制の1番大きな所かなって。
ここまで自由に設計できるのって、将来もう無いじゃないですか。
箭内:うん、無いね。
加藤:って、思うと、土台は卒制でできるんじゃないかと思います。
箭内:実際、提案を施主さんに言われていない方向へ持って行くこともある。それでも「うん」、と頷かせてしまうだけの力を持っているボスに惚れて、アトリエのクライアントさんがくるからね。なるほど、そんな側面もあるのか。
加藤:猪熊先生も、おっしゃっていましたよね。
いかに要望とか制限がある中で、良いものを作っていくかは、建築家の腕の見せ所なのでは。
箭内:建築家の自力をつけるのに、卒制が大事ってことですかね。
加藤:なので、じゃあ、直音はこれから頑張ってください(笑)その土台になると思うので。
清家:(笑)
箭内:ハードル高いな(笑)
加藤:(笑)いや、俺らもまだ修士論文と修士設計が、残ってるので。
箭内:そうだねー。
加藤:そこでまたもう一段階土台を作って…
清家:確かに。
加藤:一年間、色々考えて、頑張っていくっていう感じですかね。
箭内:そうだね。頑張ります。
加藤:はい、じゃあそんな所で良いですか。
一同:はい、お疲れ様でした。ありがとうございました。
(文・M1五十嵐、蕭)